猪山家 嫁姑奮戦記!

- その壱 -

駒『青春座ホームページをご覧の皆々様、初めまして。
私は代々加賀藩の御算用係を勤めます猪山家8代目、猪山直之の妻、駒と申します。そしてこちらは7代目信之殿の奥方…つまり私の姑でございます』

 

常『お初にお目にかかりまする。6代目の家付き娘、常でございます。
7代目に婿養子の信之殿に入ってもろうて、安穏に暮らさせてもろうております』

 

駒『嫁姑は、とかく仲が悪いとの誤解を受けるものでございますが、我が猪山家ではそのような事は全くございません。のう母上?』

 

常『その通りじゃ。猪山家は一枚岩だからのう…ところでお駒殿?私が後で食べようと思うていた麩饅頭が見当たらぬのだが…』

 

駒『…え?…』

 

常『お駒殿?その口の端に付いておる黒い物はもしや餡…』

 

駒『は…は…母上様!今日は記念すべき第1回目でございますゆえ、私、御算用者の説明など、皆様にいたしとうございます!』

 

常『おお、そうであったの。では、麩饅頭の話はその後にゆっくりとのぉ。ほほほほほ』

 

駒『ほ…ほひょひょひょひょ…では気を確かに持って…いやいや…気を取り直して…』

 

 御算用者とは、簡単に申しますと『藩の会計係』の事です。つまり、理のプロですね。

御算用場というお部屋にずら~っと何十人も並んで、ひたすらソロバンを弾いて、藩の財産管理をしている地味~なお役目なのです。どこの藩にもあるお役目で、上級武士の身分ではないのですが、算術が大変盛んであった加賀藩では非常に重宝がられ、優秀な者は政治にも深く関わっていたようです。
 本来『算術』は商人の技であり、武士は『賎しい学問なので学ばない方が良い』とまで考えられていたこの時代ですので、御算用方というのは藩の中でも異色の存在だったようです。 たとえば家の後継者。たとえ長男であっても、算術の腕が優れていなければ養子に出され、 次男、三男でも優れている男子が跡を継ぎます。ちなみに私の夫直之も次男坊でございます。
 猪山家の場合、長男も優れていたのですが、次男であった直之の方が超優秀であった為このようになりました。兄上様は、やはり算用方の増田家の養子になられております。もしも下 の男子も優れていなければ、又は男子がひとりもいない場合は、算術の才能のある者を養子 にとります。徹底した才能重視です。まあ、それでお手当をいただいてるわけですからね。

 

駒『母上にはご兄弟がおられなかったので、父上(信之)を婿養子にとられたのですよね?』

 

常『そうじゃ。殿が16歳の時であった。ちなみに殿の実の兄上も御算用者じゃ』

 

駒『直之殿の跡は、長男の成之が継ぎました。直之殿と私に似て大変優秀でございますゆえ』

 

常『何を申す。私と信之殿に似たのじゃ。隔世遺伝よのぉ』

 

駒『はいはい。ところでついでに申しますと、成之の嫁のお政殿は、算用方の増田家の娘、つまり直之殿の兄上の娘でございます。成之とは従兄弟同士にあたります』

 

 算用方は算用方のお家同士で縁組をする事が多かったようです。やはり算術の才能を受け継ぐ為、そして同列の身分なので、互いの台所事情が解りやすいという理由もあったようです。

 

駒『私は何故か同心の娘なんですけどね~…まぁ何はともあれ、父上のお働きで猪山家は出世するわけですが…』

 

常『その通り!まことに良い婿殿をもろうたわ。ま、私の内助の功でもあるがのう。門は赤くぅ…』

 

駒『それは父上の十八番でございます。そのお話はまた後日という事で。では皆々様、本日はこの辺で』

 

常『お駒殿、次回はいつじゃ?』

 

駒『はて…存じませぬ。次回は母上がりぽーたーでございますゆえ』

 

常『何!?私もりぽーたーとやらをするのか!現場からのらいぶとやらをやるのじゃな。うふ。 …お!その前に、先程の麩饅頭の…あれ?お駒殿!?今までここにおったと思うたに、 もう姿が見えぬ。う…今日もやられてしもうた!3時のおやつに大事に取っておいたのにぃ~!』

 

 では皆々様、本日のバトル…いえ…りぽーとはここまでにいたしとうございまする。近い内にまた、お会いいたしませう~。(^∀^)ノ ̄ ̄ ̄

- その弐-

 ん~~~、おいしぃぃ~ 

やっぱりお抹茶と一緒にいただく柴舟はまた格別でございまするなぁ。
 あ、失礼いたしました。わたくし2回目のれぽーたー、猪山家の家付き娘、七代目当主信之の妻・常でございます。
食べながら失礼いたします。わたくしの主人は同じ算用者の家から猪山家に養子に入ってきてくれたのですが、これがまたそろばんの腕と才覚を生かしまして、どんどん出世なされたのでございます。
 おかげさまで猪山家は知行取りになりまして、息子の直之の収入と合わせるとかなりの年収になりますの。じゃが、もうそろそろお駒殿に家計の方も渡さねば、と存じまして、今日はしっかりと家計のやりくりを伝授いたそうと思います。


常『お駒殿、お駒殿ぉ~!』

 

駒『はぁ~い、母上様、お呼びでございますか?』

 

常『今日はお駒殿に猪山家の内情をとくと話しておこうと思いましてな。ま、これでも食べながらお聞きなされ。』

 

駒『あら!柴舟!実家にいる時もよく食べておりました。いただきまぁ~す!』(パリッ!)

 

常『さて、猪山家は知行取りということは知っておりますな?』

 

駒『はい(パリ)、母上様(ポリ)お給金だけの切米取りと違って(パリポリ)七十石の領地を(パリ)殿様からいただいておるのですよね?(ポリポリ)』

 

常『そうじゃ。しかし(ポリ)お駒殿(パリ)、食べるか話すか(パリ)どちらかにしなされ。』

 

駒『あら、そういう母上様も!ウフ!』

 

常『お、おほん! え~、今の猪山家の年収は信之殿銀1,321匁と直之銀1,754匁とを合わせて銀3,075匁(約1,200万円)ということは知っておりまするな?』 

 

駒『はい、母上様。』

 

常『で、支出の方じゃが、信之さまが出世されたはいいが、それにつれて出てゆくものも増えてきましてなぁ…。  江戸勤めの生活費、贈答のやり取りは一年中、使用人の給金、家屋敷のめんてなんすetc.etcを合わせると、年間で銀約6,000匁(約2,400万円)と、こうなっております。』

 

駒『はい、母上様。』

 

常『え~~、見たとおり、ざっと支出の方が収入の倍となりまするな。』

 

駒『は、はい、母上様。』

 

常『で、これを賄うのに我が家は親戚はもとより、町の金融業からもお金を借りておりまする。』

 

駒『は、は、はい、母上様』

 

常『で、このままいくと、2年後には借金が収入の三倍になる予定です。』

 

駒『は、は、は、はい、母上様。』

 

常『そこでじゃ、ここからがお駒殿の腕の見せ所と心得よ。只今から猪山家の財布を一切 お駒殿に預けるゆえ、一家七人の食べるもの・着るもの、家のめんてなんす、それに使用人のお給金を賄ってタモ。』

 

駒『はい、母上さ…、え?え~~~~~~~~~っ?! こ、これをわたくしがやりくりするのでございますかぁ~?』

 

常『そうじゃ、直之と二人でな。 では、よろしく頼みましたぞよ。(パリポリ、ズズ~)』

 

駒『は、はい、母上様…………(ポリ…)』

 

というわけで、わたくしは楽隠居。

 

常『お駒殿、次回はそなたのやりくりぶりをとくと見せてもらいまするぞよ~。(パリポリパリポリ)』


さて、今日はどの着物を着てお出かけいたしましょうかのぉ。ルンルン♪

- その参 -

駒『ええっと…父上と旦那様の年収を合わせると銀3,076匁(約1,200万円)でし ょ? でもって家族6人と使用人2人の年間の米代が539匁(約215万円)、おかず代が100 匁(40万円)位?使用人のお給料が155匁(約620万円)、燃料費が265匁(約106 万円)、お薬代が85匁(約34万円)でぇ、寺社への費用が80匁(約32万円)、祝 儀・交際費!これがかさむのよね!284匁(約113万円)、あと家族全員のお小遣 いと、お嫁に行かれた姉上方へのお小遣いが合わせて663匁(約265万円)、お家 のめんてなんすが14匁(約5万円)、その他雑費が203匁(約81万円)ってとこかしら?で、上納金とかが443匁(約177万円)天引きされるからぁ…

支出全部を合 計すると2,831匁(約1,132万円)!?ギリギリじゃない!
ん…?…だけど母上は着物道楽で新作着物買いまくりだし、父上は骨董道楽でよ くわかんない骨董品買いまくりだし、旦那様は勉強道楽で書籍買いまくりだし… 一体どうやってお金払ってるんだろ?母上~!母上~!!』

常『お駒殿、何じゃ?騒々しい…おお!感心な嫁じゃ!早速猪山家の台所事情を 勉強しておったのだな?褒美にこれを分けてしんぜよう。頂き物の長生殿じゃ』

駒『きゃ~♪長生殿大好きでございます~!では早速…モグモグ…

ところで母上 。今色々と計算しておったのですが、母上のお着物や父上の骨董品の金子はどこ から出てるのでございますか~?』

常『そ~んなもの決まっておろう。借りておるのじゃ』

駒『借りて…と申しますと?借金という事でございますか?それはどなたから? 』

常『そうじゃの、まず町の両替商、新保屋に和泉屋に桜井屋。家中のご親戚、娘 の嫁ぎ先や息子の養子先、殿の実家などじゃな。それにご友人方々、そうそう役 所にも借りておるな』

駒『なるほど…でも借りたお金は返さねばなりませんよねぇ?…私の計算では我 が家の収支はギリギリで、借金返済に充てる金子は無いように思われますが、一 体どうやって返済しているのでございますか?』

常『さあー?よく知らぬが、無ければまたどこかから借りれば良いのじゃ』

駒『え?でもそれでは、借金は減りませんよね?それっていわゆる多重債務、雪 だるま式のローン地獄ってやつでは…?』

常『さあー?まあ何とかなるなる!心配はいらぬ!なんせ信之殿は殿様の優秀な 秘書であるし、直之も出世間違いない!猪山家は安泰じゃ。(モグモグ)やはり 長生殿は美味だの~』

駒『……………』

常『おや、お駒殿いかがした?もう食べぬのか?珍しい。では残りも私が…』

駒『…母上、私何だかわかりませんが…背筋がうすら寒くなりました…ちょっと 直之殿にご相談申し上げて参ります。では失礼』

常『これ、お駒殿!?いかがしたのであろう?らしくないのぉ。では残った長生 殿は私が…ん?無い!な、何と!!私の分までちゃっかり持って行きよった!ま ことにしっかりした嫁じゃ…』

と、こう言うイキサツで武士の家計簿は始まるのでございます。 嫁姑のバトル、はたまた猪山家のローン地獄は如何なりますか…続きは芸術劇場 にて、トクとご覧下さりませ!嫁姑を始め、全員で皆様をお待ちしておりまする 。
ではこれにて~! m(_ _)m

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